アレン軍曹とナンブ伍長の必死の抵抗も虚しくじりじりと追い詰められて行く。
「この機体を動かすパイロットって一体何者だ?あり得ない反応速度だぞ」
自動制御で照準合わせするが、コンピューターでさえ照準が定まらない。
「軍曹!こっちの弾薬切れました。後は格闘戦しかありません!」
ナンブ伍長の使用するガトリングガンは大量の弾薬を必要とするタイプである為、すぐに弾切れを起こしてしまうのだ。それ故に破壊力は抜群である。当たればの話だが。
「伍長、こっちもそろそろやばい。ブルパップマシンガンの弾薬が切れたら、残りはキャノンしか残ってない。この近距離では意味を成さないがな」
そして、数分後には完全に弾薬が底を付く。
それを見計らってか、BD-01は回避運動を急に止めて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「も、もうだめだ・・・!」
二人が諦めかけたその時だった。BD-01に対し的確な攻撃を行う陸戦型ジムの姿が見えた。
「大丈夫か?二人とも。ここは俺に任せて、負傷した少尉を担ぎ出せ。邪魔になる」
そこには、見た事もない陸戦型ジムが彼らの目の前にいた。
「ったく、こんなふざけたシロモノを暴走させんじゃねぇよ」
目の前に現れたBD-01をキリシマ大尉は苦々しく見つめる。
そして、BD-01もキリシマ大尉を敵とみなし、攻撃を開始する。
EXAMが発動しているのにもかかわらず、BD-01の攻撃をさらりとかわしていく。
それを見たアレン軍曹とナンブ伍長は見惚れてしまう。
「す・・・。すげぇ・・・。一体、誰なんだ?あの人は」
彼らの口から漏れるのは感嘆の声だけだった。そして、正気を取り戻したベッピン少尉が目を覚ます。
「う・・・。いってぇ~~。思いっきりぶちかまされて何が起きたか理解出来なかったぜ」
ヘルメットを被ってたとはいえその衝撃は凄まじく、軽い脳震盪を引き起こすには十分だった。
ベッピン少尉は目の前で起きている光景に目を疑った。
「あ、あの機体・・・。サザンクロス教導団じゃねぇか。キリシマ大尉が来たのか?」
ベッピン少尉はパースに配属される少し前に教導団で、MS戦闘を叩き込まれた。その時の上官がキリシマ大尉だったのだ。
「相変わらずスゲーな・・・。何度やっても勝てないわけだ」
ベッピン少尉の呟きを聞いていた二人は改めて、キリシマ大尉の凄さを知る事になった。
「そろそろ、お開きにしようぜ。なぁ?蒼き死神さんよ」
BD-01の活動時間は非常に短い。その短時間で決着が付かなければ、BD-01は唯の木偶の棒になってしまう。冷却期間を取る為だ。
その限界をパース司令部から聞いていたのだった。
「色々ぶち壊したお礼をたっぷりとしたいところだが、お前の動きを封じて幕引きにさせてもらう」
「彼が携帯してきたのはネットガンである。非殺傷武器と聞こえはいいが、使い方次第では恐ろしい武器になるのだ。特に機動力を重視したMSにとってはやっかいな武器である。
BD-01のシステムが遂に限界活動を迎える。そして、その瞬間を逃さずにネットガンを放つ。
拡散したトリモチ付きのネットが四方に広がる。
だが、そこはベッピン小隊がいつも世話になっている街工場の前だった。
「こ、こんなところで戦闘するな!」
工場から飛び出してきたのは避難していたはずの朧メカニックマンだった。だが、その叫びは届かない。無情にも工場の目の前でBD-01の動きが止まる。そして、トリモチが周囲に飛び散った。大量のトリモチが彼に降りかかる。当然ながら、自慢のアフロはベトベトだ。
「俺のトレードマークがぁ・・・・」
がっくりと膝を付きorz状態になる。ちなみにトリモチが髪の毛にくっつくと普通には取れないのだ。散髪して取り除くしかない。トリモチまみれの頭髪を触ると決意したかのように呻く。
「ハゲになってやるぅ・・・」
その後、彼のアフロはどうなったかは誰も知らない。
長かった夜が明けた。そして、朝日を浴びるキリシマ大尉。彼の機体を見てたアレン軍曹とナンブ伍長は己の未熟さを痛感したのだった。
一方、Sフィールドの防衛に身を投じていたスフレ中尉は2機のジムコマンドと共にジョニー・ライデンが操るドムと戦闘を繰り広げていた。
「少佐、前方から急速に接近する機影あり。数は3」
「ジムと・・・。新型?見た事もない機体が混じってます」
だが、ジョニー・ライデンに少し心当たりがあった。
「その機体・・・。サザンクロスの教導団だな。隊長機も恐らくな」
「教導団が出てきたって事は、新型奪還は失敗したと見て良い。撤退する」
ジョニー・ライデンが退却しようとしたが、既に遅かった。
「後方に1機!いつのまに!?」
「囲まれたか・・・。包囲を突破するぞ!」
ジョニー・ライデンは2機のドムに指示を出しながら、突破の道を探していた。
「逃がしはしない!真紅の稲妻とやらの実力を見せてもらうよ!」
そう言いつつ、ジムコマンド1機と共に間合いを一気に詰める。
「くっ!さすが教導団。すんなりと逃がしてはくれないか」
散開して相手を撹乱しながら、確実に仕留めるのがドムの基本的な戦い方である。だが、相手との間合いが近いとホバーの特性上、急転回が出来ないのだ。
そのドムの弱点とも言うべき特性を、スフレ中尉は見逃さない。
「今よ!キャノンでドムを誘い込んで!」
中尉の指示を受けた中距離支援タイプのジムコマンドが、砲撃を開始する。
その的確な射撃はドムを追い詰める。
何度か回避したが、遂に背後から240mmキャノンの直撃を受ける。
「ぐあ!少佐、やられました・・・。後を頼みま…ガーーーーーー・・・」
「ニコライ!脱出しろ!!」
ジョニー・ライデンの叫びはドムのパイロットには届かなかった。そして、その隙をスフレ中尉は見逃さない。
「そこ!もらったぁ!!」
背後に回り込まれるとドムは極端に無防備になるのだ。その背後から100mmマシンガンを撃ち込む。
「さすがにこのままではやられる。悔しいが撤退する」
被弾したものの辛うじて戦闘は続行できた。しかし、部下を失い、軽微とはいえ損傷を受けたドムでは満足に戦えない。
ジグザグに動きながら、ジムの攻撃を振り切った。
「ちっ。逃げ足だけは速いね。今度は逃がさないよ」
舌打ちをしつつも、追い返した事で任務は達成された。
朝日の昇るパース。何時もと違うのはBD-01によって派手に壊された基地内部だった。
あちこちで修復作業が始まっていた。
頭部を破壊せずに拘束に成功したBD-01は、連邦軍のハンガー内で厳重に保管される事になった。
「良くやってくれた、キリシマ大尉。そしてスフレ中尉もな。心から感謝する」
「いえ、中将には何度も助けられております故、ねぎらいの言葉だけで十分であります!」
パースのHQで二人はマクドガル中将に呼ばれていたのだ。そして、今後の事について話し合う事になった。
「さて、BDー01を暴走させたパイロットについてだが、査問会に出頭させようと思う。反対意見はないかね?」
「中将、お言葉ですが、軍法会議ではないのですか?それ相応の事件だと思いますが」
こう切り出したのはスフレ中尉だった。
「実はこの件について、ジャブローは不問にすると言ってきたのだ。軍法会議に掛ける必要はないとな」
二人はマクドガル中将からそんな言葉が出てくるとは思ってなかった。まさかの言葉に絶句した。
「これだけの損害が出たんですよ?第02MS防衛小隊の陸戦型ジムが全滅し、基地施設にも多大な損害が出たのに!なぜですか?」
「そう、食って掛かるな。スフレ中尉。私だってこんな茶番は認めたくはないのだよ。だが、ジャブローの命令は絶対だ。判るだろう?君らも」
長い沈黙が訪れる。誰一人、納得がいかなかったが、命令に背く事は許されない事くらい理解していた。頭では判っていてもやはり、納得できなかった。
不意に秘匿通信が入ってくる。発信者はジョン・コーウェン准将(後に中将に昇格する)だった。
「お久しぶりです、中将。BD-01の件についてですが、お知らせしたい事があります」
「おお!久しぶりだな、ジョン。何かあったのか?」
「はい。今回の黒幕が誰なのか突き止めたのです。なんと黒幕はジャブロー内部の人間です」
あまりも信じがたい内容だった。
「黒幕は誰なんだね?」
中将がコーウェン准将に聞く。
「中将、ジャミトフ・ハイマンという男を知ってますか?」
「ジャミトフだと?あの男、強化人間研究を盛んに議会で叫んでいたな」
「なぜ、奴が黒幕だと?」
「今回の件は強化人間の実験データを作り出す第一歩なのです。その為にテストするよりも実戦でデータを集めるのが目的なのです」
「それで今回の事件を引き起こしたと?それが事実なら、由々しき事だ。反逆罪で逮捕出来ないのか?」
その問いに、コーウェン准将は声のトーンを落とす。
「確証はありますが、証拠が何一つないのです。証拠なしには捕まえる事が出来ません」
それを聞き、腐敗の根の深さを改めて思い知ったマクドガル中将だった。
「くっ。悪巧みに関しては奴の右に出る者はなし・・・か」
「はい・・・。ですが、そちらに潜り込んでいると思われるスパイを尋問すれば何か証拠が出るかも知れません」
「むう・・・。判った、ありがとう准将。この件はジャミトフに知られてはまずい。慎重に行動したまえ。暗殺というシナリオもあるんでな」
「お心遣い、感謝します。また、何か情報がありましたらこちらに通信しますので。では」
ジオンの密偵による内偵かと思いきや、ジャミトフによる意図的な情報漏洩だった事に一同はショックを隠せなかった。
オデッサ作戦開始まで、あと1週間。時に0079年10月30日だった。
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