このパース内で「新型MS」の存在を知っている者はごく少数だった。
もちろん、ベッピン少尉やイズミ中尉さえも知らない軍事機密だったのだ。
「基地指令、我がパースに迫りつつあるジオンですが、奴らはこの機体を狙っているのでしょうか?」
「判らんな。だが、こんな辺境の基地に新型MSを送りつけてくるなんて、ジャブローのモグラ共は一体、何を考えているんだ」
基地指令であるマクドガル中将が毒づく。
「アオシマ少佐、君は今回の新型配備をどう思う?単なるデータ収集とは思えないのだが」
確かに変な話である。通常、MSのテストやデータ収集はそれ専門の部隊に配属されるのだ。そして、前線に近い戦場である程度の評価試験を行い、そのデータを報告するのが通例なのだからだ。
「お言葉ですが、その発言は控えた方が宜しいかと・・・」
「君はあの機体を何とも思わんのかね?以前、暴走したという噂を聞いたが、3人のテストパイロットが死亡しているそうじゃないか。私にはあれは人が乗るMSじゃないと思っている。そんな危なっかしいMSを渡されて嬉しいと思うかね?」
その「新型MS」はキャルフォルニアベースに近いミサイルベースを瞬時に壊滅させたMSであった。軍内部では「それ」を評価せずに廃棄すべきだという声が多かった。そして空間戦闘にてその存在が消えたはずだったのだ。
「中将、お気持ちは判りますが、軍法会議に掛けられてしまいますよ。我々は与えられた命令を実行するしか道はないのですから。私だって、正直に言えばあの機体には関わりたくありませんよ」
アオシマ少佐もまた、あの機体についてよくない噂を耳にしているのだ。
「しかし妙ですな。廃棄処分扱いになった機体をなぜ、再生したんでしょうかね?」
「モグラ共の考える事は判らんよ。だが、一つだけ言える事がある。第二のアムロ・レイを作り出す為だろうな」
「人為的にそんな事は可能でしょうか?」
「それは私の疑問でもある。だが、上層部はこれ以上MSパイロットの損耗を防ぎたい筈だからな。何が何でもやるだろう」
タバコに火をつけながら、中将は不満を吐き出す。
「いつだって、戦場で戦っているのは生身の人間だ。そんな殺戮マシーンを投入したら単なる虐殺しか生まない事を奴らは何も判ってない」
基地司令室から外を眺める二人。彼らの不安は現実のものとなった。
不意に司令室の電話が鳴る。
「中将!大変です!ジオンのザク3機がパース基地内に突如現れたました!」
電話している通信兵がさらに捲くし立てる。
「現在、Nフィールドで防衛部隊と交戦中。更にSフィールド近辺でもMSの存在が察知されています。至急、CICへお越し下さい」
受話器を置いたマクドガル中将は「やはり来たか」と呟くと、アオシマ少佐と共にCICへ足を運んだ。
「連邦の奴ら、慌てふためいてるな。体勢が整わないうちに新型を頂くとするか。各機、派手に暴れても良いが、新型を破壊するなよ」
隊長機と別れた2機はパース基地内部の陽動を開始する。隊長機は別行動で「新型MS」が格納されているハンガーを目指していた。
格納庫を防衛していた、陸戦型ジム3機に通信が入る。
「マクドガルだ。ジオンが防衛ラインをどうやって掻い潜ったか知らんが、ザク3機がそっちに向かっている。なんとしても格納庫を防衛せよ」
命令を受けたジム3機は一斉に拠点防衛体制に入る。彼らは格納庫に何があるのか知らされていない。
一方、基地内部に響くサイレンを聞いたベッピン少尉はすぐにHQに戻った。

「おやっさん!今夜中に直さなくて良いから、何処かに避難してくれ。ジオンが襲撃してきたみたいだ。俺はすぐにHQに戻って出撃する。またな」
そう言い残すとホバートラックのエンジンを吹かして、HQに向かった。
「通信部は一体何やってたんだ?ザクの接近を見逃すなんて!」
ホバートラックを乱暴に操りながら、通信部の不甲斐なさを口に出す。
運転している際にも爆発音と衝撃が伝わってくる。
「ジオンもこの期に及んで良くやるぜ。その根性を他で使えば良いのに・・・」
ベッピン少尉の思いは連邦の兵士の願いでもあった。「こんな馬鹿げた戦争終われば良い」と。
だが、地上戦線はいよいよ、大詰めに向かいつつも混迷を増していったのだった。
ベッピン少尉がハンガーに着くと、既に防衛隊と協力して敵を排除せよとの命令を受けていた。
「隊長、もう他の部隊は防衛線の死守に入ってるぜ」
ジムスナイパーから乗り換えたアレン軍曹がガンキャノン量産型のコクピットに座る。
そして、もう1機の寒冷ジムには新たに配属されたパイロットが乗っていた。
「先ほど、着任しました「キョウスケ・ナンブ」です。階級は伍長であります!」
聞けば、彼はナイメーヘンの士官学校を卒業したばかりで、格闘成績が優秀だという。
「活躍を期待したいところだが、今日は後方から戦場を感じて欲しい。「無理はするな」、これが命令だ」
初陣が防衛戦であっても、命を賭している事は変わりない。生き残った者が勝利をつかむのだ。
「は!了解であります!」
ベッピン少尉は乗りなれた寒冷ジムに乗る。
「良し!各機準備は良いな?本隊はこれよりNフィールドの防衛線を死守する」
襲来する3機のザクを倒せば、そこで任務は成功という事になる。
「戦いは常に変化する。少しの変化も見逃すなよ。ナンブ伍長、常に周囲に気を配れ。臆病なほどに周囲の変化に気がつけば、それだけ生き残る確立は上がるぞ」
ベッピン率いる第04MS防衛小隊は陸戦型ジム3機と共に「新型MS」の防衛任務に就いた。
ホバートラックにレッタ上級軍曹が乗り込む。
「敵は陽動と挟撃を同時に行うはずです。隊長、他にもまだジオンの展開部隊がいると思います。警戒してください」
基地内部ではアンダーグラウンドソナーが全く使えない。だが、光学センサー類はMSよりも性能が良いので、頼りになるのだ。
一方、Sフィールドに現れた謎のMS。彼らこそ、強襲部隊なのだ。
「こちら、ジョニー・ライデン。各機、Sフィールドから仕掛けるぞ。遅れるな!」
赤い稲妻と呼ばれた男を連邦内部で知らない者はいないのだ。
ドムを真っ赤に染めたのは赤い彗星に憧れた訳ではなく、エースとしての権限を使う為だからだ。
「連邦の新型がどんなものか見てみたいものだな」
その一言を合図に強襲隊が行動を起こした。
一方、防衛対象であった格納庫に、一人の不審な男が入っていった。
点検をしていたメカニックマンを気絶させて、その「新型」に乗り込む。
そして、コクピットに座るや否や、オープンマイクでこう宣言する。
「このMSは貰って行く!ウンバホ再興の為に!」
MS格納庫を破り、外に出る。
「な、なんだ?いきなり出てきたぞ?」
驚く3機のジム。彼らが死守しようとした対象がMSだったのだ。
「き、聞いてねぇぞ?あれは「死神」じゃないか!嘘だろ・・・」
3機のジムから声が漏れる。
「アレ、やべぇよ。エグザムだっけか?アレが発動したら、俺ら死ぬぜ」
明らかにジオンとは違う「ウンバホ」と呼ばれる組織が、この機体を奪い何をするのか?
明確な意思がない分、性質が悪い。
ベッピン少尉が現場に着くなり、ベッピンは驚きの声を上げる。
「な、なんだ?あれが防衛目標??」
ベッピン少尉が驚くのと同時に、不意に無線が入る。
「久しぶりだな!ベッピン・ゲイ・ブレードさんよ」
なぜか彼はベッピン少尉を知っていた。そして、その声にやっと気がつく。
「お前、アゴなしケンか〈クラッシャー・ジョー〉?何をしている!その機体からすぐに降りろ!」
「ふん!だから貴様はゲイなのだ!」
「敢えて言おう。ベッピンはゲイであると!」
アゴなしケンと呼ばれた男の一言に隊員達が後ずさりする。
「た、隊長、そっちの人だったんですか?」
「バ、バカ野朗!俺はノンケだ!」
マイク越しに顔を真っ赤にして怒鳴るベッピン少尉。だが、効果はなかった。
「おい、こら。そこの門松野朗。調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
蒼き死神と呼ばれたBD-01。それを目の前にし、臆する事なく勇猛に立ち向かおうとするベッピン小隊。彼らの戦いで遂にそれが目を覚ます事になる・・・。
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